2023年10月24日火曜日

それすらも日々の果て 7

期待(?)の新人エース・ウィルドは「天才」と呼ばれただけあって
我われ凡人が思いも付かないようなアイディアを出して
難局を乗り切り、めきめきとその頭角を現していった
もっとも
キム所長の弁ではないが「天才と何とかは紙一重」で
その奇人っぷりに辟易している同僚もいたことは否めない
そんなある日
エース「ギャリー先輩、折り入ってご相談が」
エース「来月からいきなり家賃を二割上げるなんて横暴でしょう?」
ギャリー「そうだな」
エース「安月給の俺に支払えるわけないですよ …で、ギャリー先輩」
ギャリー「はい?」
エース「先輩のとこ、ひと部屋空いているって言ってましたよね?」
エース「新しいアパートが見つかるまで、俺を先輩んちに置いてもらえませんか」
ギャリー「…そうしてやりたいのはやまやまだけど ほら、うちってまだ新婚だし、手がかかる娘もいるし」
エース「あ、ご心配なく ちゃんと食費は納めますから」
ギャリー「…そ、そうじゃなくって」
エース「来週の日曜日に引越しますね 荷物は少ないから俺ひとりで大丈夫です じゃあ、しばらくご厄介になります」
ギャリー「…… 君って全然、人の話を聞かないんだね」
エース「♪」
ギャリー「……」
自分で言うのもなんだが、俺は昔から押しが弱い 
いわゆる「NOと言えない人間」なのである
エースがうちに転がり込むことを決めたのも
俺のこの性格を見抜いて「こいつなら御しやすい」と
タカをくくったのだろう そう思っていた
それが俺の思い込みにすぎないことは
エースが引越してきてすぐわかった
エースはまるっきり裏表がない性格で
誰に対しても誠実で公平だった
妻も娘もすぐさまエースとうち解けた
(エースは純粋に、俺を上司として頼ってくれただけだった)
(何か裏があるのではとエースを疑った自分をおおいに恥じた)


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